岡田と申します

2024.07.09

大分前に観て感想を書くのを忘れていたので。

監督の飯島さんとは学生時代に知り合っていて、初監督作品とのことなので観に行った。

いやあ渋いです。ソリッドな画とシンプルイズベストな構成。

東北のとある村。そこでは代々マタギの伝統が受け継がれていたが、ある日役所から今年の熊狩りの禁止を言い渡される。村の大人たちは仕方なく受け入れる。マタギの青年、信行は仕方がないと大人たちの決定に従う。しかし、信行の兄貴分の礼二郎だけは反発。

無気力な信行だが、礼二郎に連れられて共に禁止された熊狩りをしに山に入っていく。

山は険しく、吹雪が吹き荒れて、何もかもを寄せ付けないように見える。それでも礼二郎と信行は山に入って熊を探す。山を歩いていく彼らの姿は俯瞰ショットのような、ものすごく引いたショットで映される。だから僕らは彼らよりも吹雪に吹かれる木々や雪の景色に目が行ってしまうのだけど、ぽつんと端っこに映る礼二郎と信行がどれだけ山にとってはちっぽけな存在なのか、人間の決めた理なんて自然には関係ないんだぞ。といったような感じで人と自然の関係がたぶん噓偽りなく伝わってきた。

熊を探す途中で、時折礼二郎と信行は会話をする。その会話から礼二郎は離婚したことなど二人のことが分かるのだけど、この会話でしか二人の心情は説明されない。あとは僕らが想像するしかない。

でもその何を見せて何を見せないかの塩梅がとても良くて、ああ映画を観てるなと思った。断片しか見せてくれない不自由さが心地よかった。

やがて二人は熊を見つける。しかも大きい。信行に一気に緊張が走る。山を歩くカットとは打って変わってクロースアップ。信行の滴る汗までもが見えて、僕らにも緊張が走る。

意を決して大声を上げながら礼二郎が待つ狙撃場所まで熊を追い立てる信行。息を切らしながら、足がもつれながら、それでも大声を上げ続ける信行の姿は、それまで無気力だった彼が何かを決心した瞬間に見えた。

礼二郎は冷静に銃を構え、やって来る熊を待つ。そして一発の銃声が響く。山を転げ落ちる熊。信行と礼二郎は喜び合う。

一発というのがとても印象的で、とても映画的。うまく言葉にするのが難しいけど、たった一発の銃声が映画館に響いた時、その銃声の大きさに驚きもしたしとても美しいなと思った。

一発だからこその迫力と洗練さに見とれてしまった。

一回きりとか、一人だけのとか、一枚だけのとか、一本だけのとか、人はそういう限定的な物に惹かれるのだろうか。

熊を仕留めた後、二人は何かマタギの儀式のようなものをして、山を去っていく。

礼二郎は村を出て行って、信行はまたもとの生活に戻る。とても静かにこの映画は終わる。